AEDだけ備えればいいのか??

誰かを助ける、ということ

― たった今まで元気そうにしていた人が、目の前で突然倒れてしまった。

こんな場面に遭遇したら、あなたならどうしますか?

大声で助けを求める人、脈をとる人、119番通報をする人、心臓マッサージをする人。

様々な対処があると思います。救急車を呼んで、あとは救急隊員が来てくれるのをジッと待つ、というのが多数の意見かもしれません。

確かに何かうかつに手出しをしてかえって具合が悪くなるといけない、という思いから、そっとしておいて、しかるべき“専門家”に処置・治療は任せる、というのが多数の意見かもしれません。果たして、これで本当にいいのでしょうか?

 

心室細動

医学研究から、目撃者のいる急病人で脈拍がない人の多くは、“心室細動”という不整脈を来たしていることがわかって来ました。

心臓の中には送電線のような部分があり、ここを一定のリズムでピッ、ピッと電気が流れて、これにより規則正しくドキン、ドキンと縮んでいます。この電流をチェックするものが健康診断でみなさんもうけたことのある心電図検査です。

“心室細動”は本来心臓の中を規則正しく流れている電流が、送電線でないところも含めて無秩序に渦を巻くように流れるようになってしまった状態です。このため心臓は震えるようになり、ドキン、ドキンと血液を流すポンプの役割を失ってしまいます。心室細動に陥った心臓は、やがてその乱れた電気もなくなり、完全に心臓が止まった状態“心静止”になってしまいます。

医学研究でわかったのは、どうやら心臓が止まってしまった人は、いきなり心静止になるのではなく、最初一旦、心室細動となったあと、しばらくして心静止となるようだ、ということです。

 

心室細動の原因

成人の患者さんでは心筋梗塞など心臓発作が起こると心室細動が引き起こされることがあります。心臓発作の患者が病院に到着する前に心臓が止まってしまうその多くは心室細動を併発したことによります。つまり、

メタボリック症候群→ 心臓発作→ 心室細動→ 死!

ということになります。

また病気以外でも、いわゆる「心臓震盪(しんとう)」のように胸に硬いものがあたったなどの外傷によっても心室細動は引き起こされます。練習中の高校球児の胸にボールがあたり、痛ましい事故が年に数回引き起こされていることを新聞などでご存知の方も多いでしょう。

 

 

AED

心室細動の状態の心臓は、直流電気ショックを加えることにより、正常な調律を取り戻すことが期待できます。このための電気ショックをする機械を除細動器といいます。TVドラマでドクターがちっちゃなアイロンのような器具を患者の胸に押し付け、バン!と通電する、あれです。

この除細動器は心電図を映し出すモニターの部分と電気ショックを達成する部分がありますが、これに、心電図を自動的に分析し、電気ショックが必要か不必要かを判断する機能を追加したのがAEDです。自動体外式除細動器という日本名からもその機能を窺うことができます。高精度の解析機能があることで、心電図の判断に不慣れな医療従事者や、ひいては一般市民であっても、効果的な除細動、つまり電気ショックをすることが可能となりました。

 

市民参加の心肺蘇生

ひとくちに心肺停止状態といっても、“心室細動”がAEDなどによる除細動によって回復が期待できる一方で、完全に心臓が動きをなくした“心静止”は薬物治療など高度な治療をもってしても治療効果は芳しくありません。こうしたことから、“心室細動”の心臓が“心静止”となる前に、除細動ができるか、が救命処置のキーポイントということになります。

心肺停止状態の人の救命率は1分経過するごとに10%ずつ低下するというデータとあわせて言えることは、救急車が来るまでジッとしていることは、“心室細動”の心臓が“心静止”となるのをジッと待っているようなものです。救急車の到着の前に、いかにして除細動を行なうか、が蘇生率向上の鍵を握っています。このために必要な要素は、「AEDがすぐに手に入ること」と「居合わせた人がAEDを適切に使用できること」です。

アメリカで市民参加のAED使用の必要性が提唱されるようになって、空港やカジノなど大勢の人が集まる場所にAEDが設置されました。日本でもデパートや駅、高速道路のサービスエリアなどでAEDが設置されているのを目にしたことがあると思います。

先に述べたとおり、AEDには解析機能がついていますから、心臓病についての専門的な知識がなくても機械の使用方法がわかっていれば適切に使用が可能です。

 

AED使用の法律的側面

“除細動”すなわち電気ショックをかけることは医療行為ですから、原則的には医師のみに許された行為です。但し厚生労働省は患者の生命が脅かされている状況と考えられる場合は、一定の条件を満たした場合には、いわゆる“緊急避難行為”として医師でなくともAEDを使用することを認めています。

その一定の条件とは

 (1) 医師等を探す努力をしても見つからない等、医師等による速やかな対応を

得ることが困難であること

 (2) 使用者が、対象者の意識、呼吸がないことを確認していること

(3) 使用者が、自動体外式除細動器の使用に必要な講習を受けていること

 (4) 使用される自動体外式除細動器が医療用具として薬事法上の承認を得ている

こと

の4つです。

目の前で人が倒れてしまい、息をしておらず、脈がない。そしてその場にお医者さんは居合わせていないが、AEDが届けられた状況。そんな状況で、もしあなたが、AED使用に関する講習会を受けていれば、その人を助けてあげられるかもしれない、ということです。

 

 

心肺蘇生についての最新の考え方

心肺蘇生においてAEDの重要性が強調されることで街にAEDが普及し、市民参加によるAED使用も次第に達成されてきました。そこで新たな医学的知見としてわかったことは、AEDの普及と使用によって心肺停止状態の患者さんの蘇生率が向上した

ということです。

しかし同時に見えてきたことは

AEDの使用によって社会復帰率は蘇生率ほど向上しなかった

ということです。

つまり、電気ショックによって確かに心臓は回復したけれども、脳などの重要臓器に重大な障害が残ってしまうことが多いということでした。

電気ショックをかけて心臓が回復するまでの間は、心臓はポンプとして動いていませんから、この間は脳や全身の重要な臓器に血液つまり酸素が流れていかず、酸素欠乏による障害をうけることになっていたのです。

市民参加にてAEDを使用して除細動を行ない、到着した救急隊に引き継いでも、それまでの間に患者さんの脳は酸素欠乏で障害を受けてしまっているのでは、重大な後遺症は免れません。救急処置の目標があくまでも障害を残すことなく社会復帰することである以上、心臓の回復だけでなく、脳を保護するという考え方を持つことが必要であるとわかったわけです。

効果的な心肺蘇生術、すなわち心臓マッサージを実施することで、ポンプ機能を失った心臓を収縮させて、脳に血液を送り届けることが可能となります。やはり救急隊をジッと待っているだけではダメだったのです。

 

 

『救命の連鎖』という考え

生命を脅かす緊急事態に苛まれた人に対処する考え方に「救命の連鎖(Chain of Survival)という考え方があります。

これは

(1)       早期の通報

(2)       早期の心肺蘇生

(3)       早期の除細動

(4)       早期の高度医療処置

の4つの輪で構成されています。

大切なことはこれら4つの項目がバラバラに存在するのではなく、次から次へと鎖のようにしっかりと繋がり引き継がれていくことで患者さんの命が救われる、という概念であることです。

いちはやく119番通報をしつつ、心臓マッサージなどの心肺蘇生術を行ない、AED使用を果たすのは、選ばれた専門家ではなく、偶然その場に居合わせたあなたの役割なのかもしれません。専門家でない市民の動きがその患者さんを社会復帰に導く大きな支えになっていることを理解して頂けたならば、心肺蘇生術を学ぶこと、AED使用を学ぶことの必要性も自然とわかって頂けると思います。

 

さあ、あなたの番です。

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